3月某日
大阪は堺市にある
アルフォンス・ミュシャ館 に行ってみる。
画家ミュシャについてネットで調べてみたら、ミュシャの絵を集めたコレクションのひとつが日本に、しかも大阪にあるという。
一般にそれは「ドイ・コレクション」と呼ばれる。
「ドイ」というのはカメラのドイの創業者である土居君雄のことで、彼はミュシャの知名度がそれほどでない頃からミュシャの絵を個人的に蒐集していた。遺族が堺市に寄贈したものが「ドイ・コレクション」だ。
アルフォンス・ミュシャ館
その「ドイ・コレクション」を所蔵するアルフォンス・ミュシャ館では年に3回、それぞれ4ヶ月の期間をひとつの企画展にあてている。
現在は「デザイナーとしてのミュシャ」展が3月17日から7月8日まで開催されていて、「伝統と革新の間で揺れた彼のデザイナーとしてのスタンス」をメインテーマに約80点の作品を展示している。所蔵作品は約500点にのぼるらしいが、各企画展ではそのうち80点ほどが公開される方式となっているため、すべての作品を同時に観ることはできない。個人的には3月11日まで開催していた「ミュシャと祖国チェコ」展のほうに関心がそそられるのだが・・・存在を知るのが数日遅かった。
館内で写真を撮ることは当然できないので、入り口近くの壁にかかっていた(印刷の)ミュシャの絵。照明と壁の色にあるように、ミュシャの絵に合う黄土色をベースとした色調の内装は、落ち着いていてとてもいいと思う。
ミュシャの芸術性
実はアルフォンス・ミュシャ(1860-1939)については全く何も知らない。絵をネットで見ただけである。そんな些少な知識によれば、ミュシャの絵の特徴は「描線」(身体の線)であると云える。
ほとんどが描線で描かれるミュシャの絵はマンガと見間違えるほどで、そのせいか、日本でとても人気がある。有名なのは「ヒヤシンス姫」だろう(今回は展示されていない)。
ミュシャ / ヒヤシンス姫 1911年 ※展示なし
絵の印象からミュシャ本人も現代的、即時的な(つまり商業的な)人物なのではないかと思われるかもしれない。事実、私もそう思っていた。だが、館内で最初に目にとびこんできた絵を観た瞬間からその先入観は吹き飛んだ。
ミュシャ / 瞑想 1896年
照明が暗めだったため、実際はこの画像よりももっと陰鬱な印象を受ける。暗闇のなかでうな垂れる少女が絶望しているように見えた。いったい、「ヒヤシンス姫」のミュシャと、どうつながるのだろう。
そもそもミュシャは、最初からグラフィックアート的な絵を描きたかったのではない。歴史画や宗教画の画家を目指していたのだ。
今回の企画展のパンフレットにはこうある。「幼い頃から絵を描くことが得意であった彼は、宗教画や歴史画といった古典的な絵画を描く画家に憧れて故郷を旅立ち、ミュンヘンやパリの私立アカデミーに学びました」。しかし、資金的な問題から学業を続けられず、やむなく雑誌などの挿絵の仕事をはじめた。偶然、パリの舞台女優サラ・ベルナールのポスター制作(「ジスモンダ」)を手がけたのをきっかけに、ポスターや装飾などのグラフィックアートの世界で活躍することとなる。
ミュシャ / ジスモンダ 1895年 ※展示なし
しかし彼は、世間がその旗手とみなしたアール・ヌーヴォー(新芸術)の画家であるという自覚はなかった。正統な画家でありたいという信念は変わらなかったのである。それが作品「瞑想」にあらわれている。(無料パンフレットにはこの作品への解説が載っておらず、会場の絵の説明文もメモしていないので、詳細は忘れた。)
ミュシャ / 「白い象の伝説」挿絵 1893年
この挿絵の精緻さからはミュシャの絵の技術の高さがはっきりと伝わってくる。そんな裏づけがあってこその、彼のグラフィックアートだったのかもしれない。
ミュシャの絵に冠される象徴主義や、ミュシャの歴史画などについては、次回ミュシャ館に行ったときにまとめたい。
※参考ページ※
=
堺市立文化館 アルフォンス・ミュシャ館 公式サイト
=
ミュシャを楽しむために (個人サイト)
作品集
今回の企画展で気にいったものをいくつか。(本ブログでは実際にできるだけ近い色合いの画像を選んで掲載しています。)
ミュシャ / 百合の中の聖母(習作) 1904年
この作品がもっとも印象に残っている。もう一度観たい絵だ。
ミュシャ / メディア 1898年
ミュシャ / ハムレット 1899年
ミュシャ / モナコ・モンテ=カルロ 1897年
カタログとポストカード
今回の企画展オリジナルのカタログは見当たらなかったので(あった気もするが簡易なものだったので)、販売していた生誕150年の企画展カタログを購入。
生誕150年記念「アルフォンス・ミュシャ展」図録 2010-2011年
/ 2,300円
無料のパンフレット(ミュシャ館の広報誌)とポストカード2枚。
「宵の明星」と「明けの明星」(右上)と「メディア」ポスター(右下)
/ 各120円