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2013年9月16日月曜日

大阪クラシック -衝撃の大植英次監督-

9月某日

大阪に5年くらい住んでいるが、毎年9月に大阪の街のいたるところで、一週間に100公演ものクラシックのコンサートが開かれるイベントが行われているとはついぞ知らなかった。クラシカルミュージックを聴き始めたのは今年にはいってからだから、興味のあるなしで完全に素通りしているものがたくさんあるということだろう。今年が8回目だそうである。

ほとんどが無料コンサートということもあって初日はたいして期待せず参加してみたがこれが予想外の愉しさで、その確実な部分がプロデューサーの大植英次さんの力によるものだということははっきり記しておきたい。

大阪クラシック 街にあふれる音楽 2013.9/8‐9/14

コンサートを実際に聴くことができたのは計13公演。


◆ 大阪クラシック 公式サイト

= 9/8(日) 1日目 =
第9公演
フィビフ/ヴァイオリン他のための五重奏曲 Op.42
第11公演
ラフマニノフ/悲しみの三重奏曲 No.1
ラヴェル/ピアノ三重奏曲 Mvt.1
第13公演
イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ No.2 No.6
第14公演
A.J.シローン/4人のための4/4 他

= 9/9(月) 2日目 =
第25公演
モーツァルト/ディヴェルティメント K.563 Mvt.1 他

= 9/10(火) 3日目 =
第41公演
ブリテン/幻想四重奏曲 他

= 9/11(水) 4日目 =
第56公演
ブリス/クラリネット五重奏曲

= 9/13(金) 6日目 =
第82公演
ピアソラ/アヴェ・マリア 他
第86公演
テレマン/4本のヴァイオリンのためのコンチェルト 他

= 9/14(土) 最終日 =
第89公演
テレマン/4つのヴァイオリンのための協奏曲 No.1
第93公演
ロッシーニ/弦楽のためのソナタ No.2 No.1
en. ロッシーニ/ウィリアムテル序曲
第96公演
シューマン/弦楽四重奏曲 No.2 Op.41-2
第99公演
モンティ/チャルダーシュ 他


初日は午後もだいぶ過ぎてから出発して、1つめの公演は午後4時開演の第9公演(大阪フィル)を大阪市中央公会堂大集会室で。有料のためチケットが必要だったけど、当日券がまだ残っているというので難なく入れた。

  大阪市中央公会堂 / 第9公演 大阪フィル 1,000円

司会はホルンの村上哲さん。「フィビフなんて誰も知らない人の曲を聴きに来る人がこれだけいるなんて、大阪、大丈夫だろうか(笑)」という話で始まった五重奏曲は、これが実によくって、最終日を終えた今振り返ってもNo.1だったと個人的に思うコンサートだった。

ズデニェク・フィビフ(1850-1900)はチェコの作曲家で、スメタナの一世代あとに活躍した人。作風は結構古いタイプだそう。

全3楽章のなかから私が気に入った第3楽章を紹介。


Ardenza Trio and guests - Fibich - Quintet Op. 42 mvt.3
ヴァイオリン、クラリネット、ホルン、チェロ、ピアノのための五重奏曲

第1と第2は比較的静かな曲調でホルンとクラリネットの響きがすばらしく、第3にはいって急に激しくなりヴァイオリンとピアノの掛け合いのようなところが印象に強く残っている。ヴァイオリンは個人的に一押しの田中美奈さん、ピアノは相愛大学の稲垣聡准教授。田中さんは最終日の第93公演でも大活躍され、クラリネットの金井信之さんは第56公演でメインをつとめた。

プロデューサー「大植英次」という現象

終演後は残念ながらアンコールがなく、すぐに地下鉄でなんば駅まで移動して第11公演(日本センチュリー)を聴く(場所はカフェ・ド・ラ・ペ)。

着いたときには開始していたので入り口近くで立ち見をしていた。10分ぐらいすぎたところでどこかで見た顔がひょっこり店にはいってきた。プロデューサーの大植英次さんである。私は初めてみた。

突飛なお召し物を身につけ落ち着きなく会場を見回しずんずんと中に入っていった姿を見てちょっと変わった人なのかなと思っていたら、曲の合間にさかんにブラヴォーなどの歓声をあげ、終演後には奏者と会場を提供するカフェに賛辞を惜しまず、「市が街を作るんじゃない、人が街をつくるんだ」と演説をぶってみせてくれた。音楽という文化は自ら育てるのであって、楽団だけでなく参加する人たちを叱咤激励し、同時に感謝を込めた言葉である。これには会場も拍手喝采。

だが、正直、大植さんの言葉が聞き取りにくい……。早口でどもっていて、何を云っているのか全然わからない(笑)。かろうじて上記の内容は理解できたが、他の人はわかるのだろうか、すくなくとも前のほうに座っている人たちは相槌をうっていたから聞き取れているのだろうけど、私にはチンプンカンプンである。自分の耳が悪いのかと思ったが、帰宅後にネットをチェックしてみたら自分だけではなさそうで少し安心した。

ともかく、大植さんの盛り上げかたは半端なく、このイベントを成功させようと粉骨砕身しているのがひしひしと伝わってきた。と云っても、この最初の遭遇の時点では、風変わりな人だという印象しか残らなかったのだが。

日本センチュリー交響楽団の奏者ふたりが「こんなにたくさんの方が来てくれて……」と感激していた姿も印象的だった。大阪フィル以外の楽団が参加するのは昨年からのようで、まだ外様のような雰囲気があるからだろうか。

さて次はスターバックスの第13公演。時間帯のかぶる公演も多いが、会場が電車や徒歩で30分以内に行ける範囲にあるから効率よく回れば結構な数の演奏を聴くことができそうだ。

ヴァイオリニストは小林亜希子(大阪フィル)さんで、毎年ソロでイザイの無伴奏ソナタを演奏していて今年ですべてのソナタを弾き終えるという記念すべきコンサート。

席が足らないほど人が集まったため、奏者から1mほどの距離の床に座るという信じられない環境が用意され、あまりの近さに(さすがにも)小林さんは緊張しているようだったが演奏がはじまるとそこはヴァイオリニストである。見事な演奏だった。と、そこにまたもや大植さんが現れた。

観客以上に存在感が強かったかもしれないのが奏者の斜め後ろに座る大植さん。

撮影用にヴァイオリンを奏でる小林亜希子さんと、愉快な大植英次氏

終演後に「奏者が演奏しているところを写真撮影したいでしょ? 特別に撮影用の演奏を小林さんにお願いします!」という提案があり、観客は大盛り上がりでパシャパシャと撮影。なかなかこんな機会はないのでは? 小林さんがちょっと戸惑っていたのは仕方ないところだが、こういうパフォーマンスはとても大事だと思う。まさしくエンターテイナー大植氏。

大阪市役所正面玄関ホールに徒歩で移動して、本日4つめのコンサートとなる第14公演のパーカッション。

午後7時半。会場には目算でおよそ800人ほどの聴衆が集まった。

大阪市役所 正面玄関ホールがコンサート会場

大阪フィルのパーカッション奏者4人による演奏は、今日3度目の遭遇となった大植御大によるアジテーションにも刺激をうけて今日最大の盛り上がりをみせた。木魚を楽器にしてみたり、面白トークが披露されたり、奏者の方たちが聴衆を楽しませようという思いが強く伝わるコンサート。最後は聴衆の手拍子を誘って会場の雰囲気が最高潮に達し、今年の成功を期待させるエンディングとなった。

昨年までの大阪クラシックの様子がどのようなものだったかは知らないが、これだけの聴衆の注目を集め、音楽を通じて他人他人の間に共感的な体験をつくることができるイベントはなかなか珍しいだろう。コンサートホールではなく、ふつうの街中で、というのがいい。大植御大の最後の笑顔が忘れられないね。

2日目から6日目まで

2日目(月曜)から6日目(金曜)までは仕事帰りに寄ってだから一日1~2公演しか聴けず、ちょっと悔しいところではある。

その2日目の第25公演はノーコメント。

第41公演の3日目は30分後開始の第42公演とどちらに行くか最後まで迷ったが、オーボエをとって41に。

モーツァルトの「ディヴェルティメントK.138」(まったく知らない曲)は通常ヴァイオリンであるパートをオーボエで演奏する趣向で、とにかくオーボエの音が素晴らしい。奏者は大森悠さんで東大出身という変わった人であるが、堅苦しさは皆無、話がめちゃくちゃ面白い方だった。ヴィオラの岩井さんとのやりとりも笑いを誘って(「同い年なんですよ」「えー!」)、会場は愉快な雰囲気に包まれる。

2曲目はブリテンという20世紀のイギリスの作曲家の「幻想四重奏曲」。これが大阪クラッシックのベスト3に入る良さ。


Phantasy quartet (Op.2) for oboe,violin,viola,cello
ブリテン / 幻想四重奏曲

作品番号が2で、なんと19~20歳の頃に作曲したという早熟の天才による傑作。チェロの「行進」するかのような旋律で始まり、同じ「行進」で終わるなんとも「幻想」的な曲だった。

そして4日目は第56公演のブリス「クラリネット五重奏曲」。クラリネットの金井さんが楽章の間にもいろいろ話をしてくれ、ブリスは音楽を映画に導入しようとしたイギリスの作曲家であるという。確かに映画のなかで流れても不思議はない曲で、聴いていて全然飽きなかった。


Arthur Bliss: Quintet for Clarinet and Strings, II Allegro molto
ブリス / クラリネット五重奏曲

特に気に入った第2楽章を(全4楽章すべて視聴可)。youtubeではこのくらいしか見つけられなかったので、珍しい曲なのかなと思う。

5日目は仕事のため不参加。

金曜日の6日目は2つの公演をまわる。

第82公演は「ガーマン・ブラス」という楽団の垣根をこえて結成された金管奏者5人組のライブ。「バンドを組んだのは、ちやほやされたから(笑)」という宣言どおりの男前ぶりで演奏する曲は、ピアソラ「アヴェ・マリア」など、どれもかっこいいものばかり。会場のロビーは人がごったがえして見えないので2階に上って、それも人の隙間を覗く形で聴いた管楽器の音色は、とても表情豊かで、とくにトランペットのエロティックな音はすばらしかった。金管楽器の魅力を知った記念すべきコンサート。なお、大植氏も登場。

この日最終の第86公演はグランフロント大阪北館1Fロビーで、「大阪フィル チェロアンサンブル」。

大阪フィルの公式ブログにもあるように、大きな空間だから8本あるとしてもチェロの低音は響きにくかった。10mくらいの距離でも音がはっきりは聴こえず。

大植氏登場。大阪フィル新メンバーの花崎さんの紹介があって、東京から大阪に移籍した感想を聞かれた花崎さん、「東京の人は行儀が良いが悪く言えば冷たい(会場笑)けど、大阪は反応がダイレクト」(大意)。すかさず大植氏が「大阪の人が行儀が悪いというわけではありません(笑)」と(逆)フォローして、会場を沸かせる。そんな話は印象に残っているが、上記の理由のため音楽は一切覚えていない。

そして最終日。


(つづく)