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2011年4月10日日曜日

天皇の料理番の「粋」

4月某日

渡辺誠『昭和天皇のお食事』文春文庫を読む。ついページを開いて読み始めたらとまらなくなって、最後まで読んだ。

宮内庁の大膳課で料理人をながくつとめ、昭和天皇、今上、皇太子の三世代にわたって皇室の料理に携わった著者の、宮中料理の紹介である。

皇室で作られる料理の厳しさは想像以上だった。けして贅沢な素材を使っているのではなく、その作り方があまりにも贅沢であると云える。すべて同じ大きさで切らなければならないため、野菜は真ん中の部分しか使用しない。すべて同じ食感が求められるため、同じ食感になるよう厚みをその都度変える・・・・・・など、技の贅沢である。そして、これが日本人の料理の真髄なのだなと思う。

本書は皇室の料理がメインなのであるが、著者・渡辺氏の人生も、もっと興味をそそられるものだ。食事にハイカラな家に生まれ、中高生時代には英語を習うために米軍基地でアルバイトをし、そこで出会った洋食文化に強い憧れを寄せ、家業の仕立て屋を継がず18歳で料理人の道を目指してプリンスホテルに就職。そこでひどいしごきやいじめにあいつつも誰よりも努力して一流の料理人になろうとして修行。縁あって宮内庁の大膳課に移籍してからの努力も目をみはるものがある。そしてそこで出会った先輩の料理人たちの素晴らしさ――。

ひとつ紹介すれば、師匠格にあたる中島伝次郎・副主膳長の「粋」がすばらしかった。

料理だけでなく遊びも一流だった中島伝次郎にお座敷に連れられた渡辺氏は、最後の会計の際、財布を渡され支払いをしに女将のところへ行った。だが。

「中島様の大切なお客様(渡辺氏ではない正式な客)ですから、勘定はうちがもちますので結構です」

と断られ、中島氏にその旨を伝えた。すると中島氏は通常の代金の倍くらいのお金を渡辺氏に預け、

「祝儀だといって渡してきな」

と再度女将のもとへ向かい、女将は今度はそのお金を受け取った、という。

こういうのを本物の「粋」というのだろうね。

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