10月某日
大阪駅近くの某古本屋で入手した展覧会カタログ。
デトロイト美術館展 1989-90年開催 東京・京都・茨城
その中からいくつか紹介。
マネ / 浜辺にて 1873年
ルノワール / 白衣のピエロ 1905年
ブーグロー / 木の実を集める少女たち 1882年
このブーグローが最も衝撃的だった。ほとんど写真である。
写実の究極の形なのかもしれない。だが、写真に近づきすぎているため「写真のほうがいいのでは?」という疑問は避けられないのであって、絵としての価値があるのかどうかが根源的に問われる作品(作家)である。人は絵に、リアリズムだけを求めるわけではないからだ。
だが、画家の筆によって作られたという、ルノアールの云うところのメチエ(職人技)のひとつの頂点であるのは疑いえない。もっとも、ルノワールはブーグローは否定するかもしれないが。
それはともかく、ブーグローについて調べていたら、意外な事実を知った。
ブーグローと印象派
1825年に生まれたブーグローは、画家としての実績を積み重ね、76年に美術アカデミーの会員、84年にはその会長にまでのぼりつめた当代一流の画家であった。作品をみれば、その腕のすごさは疑いようがない。
面白いのは、ブーグローが美術界の権威となった時期はちょうど、印象派が登場し始めた時期にあたるのである(第一回印象派展は1874年だ)。印象派の絵画は当時のサロンにことごとく否定されたわけだが、その否定した人物というのが、ブーグロー本人だったというわけだ。
たしかにブーグローの作品は写実主義の極致である。1882年発表の「木の実を集める少女たち」のようなカントリー地方の素朴な情景を描いたものもあるが、彼の作品の多くは宗教画が占めている。まさしく「守旧派」の代表と云える存在であろう。
ブーグロー / プシュケを略奪するキューピッド 1895年
ブーグローと印象派の画家たちと、「描き方」において共通するものは、同時代に生きた画家であるとは思えないほど、全くみあたらない。純粋な美しさを追求するブーグローの理想=リアリズムは、すぐれて感覚的な印象派の理想=インプレッショニズムと重なりあうことはない。
かような権威が支配する世界にあって印象派が受け入れられなかった理由については、両者の絵を見比べてみれば十分で、言葉の説明など不要だ。これら対照的な絵が、同じカタログに(しかもほとんど同時期の美術史として)並んで掲載されているというのは、当時の人たちには想像もつかなかったことではないか。
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