3月某日
今週の『週刊文春』をザッピングしていたら、ふだんは読まない福岡ハカセ(福岡伸一教授)のエッセイに目がとまる。フェルメールの絵が日本に一枚やってきたという。
福岡ハカセがフェルメールのファンであると聞いて意外な気がしないわけではないが、以前から多趣味で教養のあるところを見せてくれていたハカセだから、じっくり読んでみた。
フェルメールの「光」の表現の仕方のすばらしさはよく云われていて、絵筆の先の一点で立体感を表現する技術は他の画家にはないフェルメール独特の才能である。ではなぜフェルメールはそれができたのか。福岡ハカセが云うように、「カメラ・オブスクラ」をフェルメールが知っていたからだ。
カメラ・オブスクラというのは、小さな穴を開けた箱の奥に反対側の風景が天地逆に映し出される装置。今日のカメラの原型であり、映し出された像をなぞればリアルな絵を描くことができる。遠近法を利用した画期的な装置である。
この装置を使って、フェルメールは独特の表現方法を身につけたわけだが、ではこの装置をどうやって知ったのか。福岡ハカセは、あくまで「仮説」であるとしつつ、同時代・同都市を生きた生物学者のアントニ・フォン・レーウェンフックから教わったのではないかという。二人の交流を証明する記録はなにもないが、レーウェンフックが残したスケッチは画家が描いたとしか思えないような精緻さと陰影の巧みさがあらわれているらしい。レーウェンフックはまた、こう書き残してもいる。
「スケッチは知り合いの画家に頼んで描いてもらった」
そう、自分で描いたのではなく、画家が描いたものなのだ。だが、その画家の名前は一切書き残されていない(なんというミステリー!)。一方のフェルメールがデッサン類を一枚も残していない画家であるというのも、この逸話をさらに貴重なものとしてくれる。
このデッサンがフェルメールのものであれば――――それはフェルメールの唯一のデッサンであることになり、フェルメールがカメラ・オブスクラを利用していたという証拠にもなる。とても夢のある話ではないか。福岡ハカセに期待しよう。
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