8月某日
〔 承 前 〕
4章 手紙を通したコミュニケーション
さて、目的のフェルメールである。
今回日本に運ばれてきたものは、フェルメールのなかで人気のある絵というわけではない。だが、「手紙」にまつわる絵画が3枚集められているのは貴重だろう。といっても、その貴重さの程度がわかるほど、詳しくはない。
「4章」に用意された絵画は2つのブースに分けられていた。フェルメールとそれ以外と、である。もちろん、奥のほうにフェルメールの部屋が用意されている。
最初のブースから駆け足で最後の部屋まで向かう。各ブースの壁に飾られている名画であろう絵画たちをちらちら見やりながら、惜しげもなく通過していくときの気分は、なんともいいようがない。もったいないのか、当然の行為なのか。
最後のブースに入る直前、少し歩みが遅くなる。フェルメールの絵をはじめてこの目で見るのだ。緊張しないほうがおかしい。画集で散々みてきたフェルメールがもうすぐ現れるのだから。
薄暗い部屋に入る。ほかの部屋より人が多い。ここでは絵の1枚1枚に警備員がついているのがすぐわかる(ほかの部屋では部屋に1名か2名だ)。
入口近くに飾られていたのは「手紙を書く女」。
フェルメール / 手紙を書く女
地味。それが第一印象である。
画像は比較的明るいが、部屋が薄暗いせいか、実物は色あせた絵に見える。
人が多いため遠くから眺めたからそう見えたのかもしれない。隙間を見つけて、近くに寄ってみる。
間違いなく本物だ。本物の質感だ。
絵から1mの距離で凝視すると、ドレスの縁の白いふさふさがとても繊細に描かれているのがよくわかる。毛の一本一本までが見えるくらいに。
点描にも目がいく。テーブルにおかれたケースや真珠のネックレス、椅子の鋲が不自然なほど白く光っている。そして、よく見てみれば、女の耳にも真珠の耳飾りがあるのだ。
女の表情は遠くで見ればちょっと怖い印象をうけるが、近づいてみてみると意外に優しい顔をしている。少し暗く、醒めた表情ではあるけれど。
でも、この絵はやはりトローニー(実在しない人物がモデル)なのだろうか。女の顔のつくりが人工的にみえ、人形に近いと云えなくはない。
いずれにしても、この絵の表現全体が、フェルメールにしか描けない種類のものだということは明らかだ。そして、絵というのは、写真でみるよりも本物をじかにみるほうがずっといいのだと知った。
そんなことを感覚的に思いながら絵の前で数分立ち止まって、隣のフェルメールに移動する。
〔 次 回 〕
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