2012年10月13日土曜日

小磯記念美術館とザ・大阪ベストアート展

10月某日

兵庫県立美術館で小磯良平に興味をもったので、同じく神戸にある神戸市立小磯記念美術館に行ってみた。

   神戸市立小磯良平美術館 / 最寄り駅はアイランド北口駅

六甲アイランドのど真ん中、マンション群に囲まれた美術館は、なんだか場違いな印象を受けるかっこいい建物である。ちょっと洒落た図書館という風だ。


   小磯良平のアトリエ

円状の建物の中央には、小磯良平が実際に使用していたアトリエがそのまま移築されており、中に入って当時のアトリエの様子を見ることができる。椅子やイーゼルはもちろん、絵具が山盛りになったパレットもそのままだ。

展覧会はコレクション展と特別展が同時開催または単独で行われており、私が行ったときはコレクション展がメインだった。

嬉しいことにほとんど知らない作品ばかりで、その中でも気に入ったのは、「踊り子」と「肩かけをした少女」、そして「舞妓」だった。

「舞妓」は横顔の舞妓さんを描いた作品で、島田(?)に結った髪と白粉(おしろい)、着物の形の美しさがとてもよく伝わってくる。とくに、白粉の部分と地肌が滑らかな曲線で分たれているところに感嘆する。

こういう絵をみると、着物はやはり日本人が似合うのかなと思う。なで肩で鼻が低くちょっと猫背な姿態が、横からみるととても美しい絵になるのだ。骨格が違う白人の女性が着物を着ると少し違和感を感じるのは、その美意識が潜在的にあるからかもしれない。

「肩かけをした少女」は背景が紅葉かなにかが散っているような感じになっており、少女が格子柄の派手な肩かけをし、凛とした視線でこちらを見ている作品。全体の色合いは赤というか朱色で派手なのだが、ちょっと都会風でいい絵だった。

だが、それらの画像はいくらネットで探しても見つからない。画集(『小磯良平画文集 絵になる姿』)にも載っていないし、館内は撮影禁止だから自分で撮ることもできない。

「踊り子」は同じ題名の絵がいくつかあって、東京国立近代美術館所蔵のものがもっとも有名だが、今回展示されていたものは「寄託作品」とクレジットがついていたからこの美術館所蔵のものでなく、資料がなにもない。

追体験ができないのはがっかりである(いや普通はそうかもしれないが)。ミュージアムショップも驚きの「閉店中」だったからポストカードも買っていないのだ。

こんなことなら模写してくればよかった。


ザ・大阪ベストアート展 -大阪市立美術館(仮称)心斎橋展示室

神戸からUターンして、心斎橋まで。

美術館名に(仮称)とあるのは、橋下市長がうんたらかんたら云って中途半端な状態にあるからだと思うがよく知らない。そして、心斎橋になぜ展示室(分室)があるのかもよくわからない。

もっともわからないのは、その心斎橋展示室がどこにあるかだ。

出光ナガホリビルの13階ということなのだが、ビルの表通り側には案内板もポスターもひとつもないから、似たようなビルが並ぶ通りをぶらぶら歩いているだけでは、絶対に見つからない。ビルの反対側、つまり路地のほうに小さな看板がひとつだけあって、それを発見してようやく「このビルか…」と安堵できるのである。ビルの管理会社のきまりとして看板を出せないのかもしれないが、これは不親切で不真面目だと思う。美術館側の怠慢なのか、橋下市長のせいなのか、いずれにしてもいい加減だ。

それはどうでもいいとして、このダサい名前の美術展に行こうと思ったのは、ほかに面白そうな美術展がなかったからでしかなく、だから特別期待はしていなかったのだけれど、意外にもいい作品がいくつか観られた。


公式サイト : 
ザ・大阪ベストアート展 -府&市モダンアートコレクションから-

「ザ・大阪ベストアート展」は大阪府・大阪市が所蔵する100点の作品のなかから一般人の投票により展示作品を決定するという趣旨のもので、選ばれた50点が比較的ゆったりとしたスペースで展示されていた。

大阪が所蔵するもの限定だからたいした作品はない。それでも集めればそれなりに楽しめるものだ。

まずルネ・マグリット(1898-1967)とサルバドール・ダリ(1904-89)の意味不明絵画。

   ルネ・マグリット / レディ・メイドの花束 1957年

男性の背中に浮かぶ女性は、あのボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」にでてくる右の女性なのだろうか。

   ボッティチェリ / ヴィーナスの誕生 1483年頃 ※展示なし

右の女性は時の女神ホーラだという。マグリットの絵にはどういった意味がこめられているか、知らないので保留。

   サルバドール・ダリ / 幽霊と幻影 1934年頃

よくわかりません。

それからモーリス・ド・ヴラマンク(1876-1958)の絵。

   モーリス・ド・ヴラマンク / 雪の村 1930年頃

こんな画像しか見つからなかったが、とても美しい絵だった。光沢のある雪景色はナイロンのように艶を帯びていて、ちょうとホーマーの描く水面の月明かりのようである。

   キスリング / オランダ娘 1922年

   ローランサン / プリンセス達 1928年

モイズ・キスリング(1891-1953)とマリー・ローサンサン(1883-1956)は、こういう絵もあるのだなという印象のみ。といいつつ、「オランダ娘」のほうは結構お気に入り。

だがしかし、目玉はやはりアメデオ・モディリアーニ(1884-1920)であった。

   モディリアーニ / 髪をほどいた横たわる裸婦 1917年

たとえば写真をみても、素人目にはさっぱり魅力が感じられないモディリアーニ。ところが現物をみると、これがものすごい肉感で迫ってきた。

描線が目立ちすぎ、ともすれば子どもが描いたかと思ってしまいそうな絵(画風)であるが、ささやかすぎる肌のグラデーションは現実性と官能性を軽く表現してしまっている。これで充分だろう?と画家が云っていそうだ。

この絵は額縁に10センチぐらいまで近づくことができ、かぶりつくように観るという幸運もあった。いい絵を「体験」できたものだ。

で、そもそもこの展覧会は投票によって展示作品が決まったわけだが、第一位は佐伯祐三の「郵便配達夫」。有名すぎる絵で、特に関心はないのでパスして、日本人画家でよかったのはやはり小磯良平(1903-88)。

   小磯良平 / コスチューム 1939年

こんな画像しか探し当てられなかったが、結構大きな絵で、支度部屋…といったら相撲になっちゃうがつまり楽屋の薄暗さが見事に表現できている作品である。

その他、日本人画家の作品はたくさんあったが、とりたてて良いと思った作品はなし。草間弥生もあるのだが、彼女の作品のどこが魅力的なのか、さっぱりわからない。