6月某日
昨年末、東京に行ったときにみつけたチラシかなにかで、ルノワールを中心とした印象派の美術展が来年、つまり今年開かれるのを知って、まずは三菱一号館美術館、ついで兵庫県立美術館に移動するというから、ルノワールはあまり好みじゃないが展示される印象派の作品のなかには他にベルト・モリゾやエドゥアール・マネのものがあるし、あるいはもしかしたら新しい画家を「発見」するかもしれないので、兵庫県立美術館に巡回に来たときにはぜひ行こうと思っていた。
6月8日から始まった美術展はネットで感想を読む限り評判もよさそうで、おそらく今年のNo.1であろうからかなり期待してわざわざ有給をとり平日に行ってみた。
奇跡のクラーク・コレクション -ルノワールとフランス絵画の傑作
左はモネ、右はルノワール / 雨の兵庫県立美術館
右がミュージアムショップ / 美術館は安藤忠雄設計
平日とあってひとの入りは一部屋に10人程度。じゅうぶん快適に観られる。
最初の展示室にはカミーユ・コロー(1795-1876)の作品が数点で、まったく注目していなかったのが幸いしたか、意外な良さに目をみはる。内訳は風景画数枚と人物画一枚で、人物画「ルイーズ・アルデュアン」はベタ塗りなどがフランスというよりドイツやフランドル地方の画風に近く、けれど顔はナポレオン、みたいな。「ボッロメーオ諸島の浴女たち」の幻想的な絵もよかったが、「水辺の道」がお気に入り。
コロー / 水辺の道 1865-70
画像よりも実物は色の濃淡(日向と日陰の差)がはっきりとしている。太陽は描かれていないのだが、強く太陽の存在を感じさせる風景画である。木の陰、砂利道の明るさ、草と木の葉の鮮やかな緑。陰と陽のコントラストが陰の暗さを引き立て、陽の明るさを際立たせている。コローが印象派への橋渡しをしたターニングポイント的人物であるのがよくわかる絵だと思う。
コローの次はフランソワ・ミレーの作品が2つ。初めてみるミレーだが、パッとしない作品でさっぱり興味を持てず。そして、ルノワールの次に作品が多く並べられたクロード・モネが続く。
モネ / 小川のガチョウ 1874
何枚ものモネの絵が飾られていたが、あえて取り上げるとすればこの「小川のガチョウ」。川に浮かぶガチョウがつくりだす波紋の斬新さは驚異的。水面は一切描かずとも、波紋だけで透明な「水」を表現してしまうのはモネの真骨頂といったところ。
カイユボットも捨てがたいのだが風景画では彼の良さはあまり発揮されない。さらにシスレー、ピサロと印象派のエッセンスがずらりと展示され、そのなかで気に入ったのはシスレー「モレのロワン川と粉挽き場、雪の効果」。
シスレー / モレのロワン川と粉挽き場、雪の効果 1891
「雪の効果」と画題に入れてしまうあたり、印象派最後の足掻きとしてのシスレーの意思が感じられる。印象主義はまだ完成されたわけではない、まだ実験段階なのであり、この作品もその途上にあるのだという強い意思。実際、限りなく簡略化された筆遣いは印象主義の究極のようでいてその先の世界をも見ているかのようだ。印象主義を軽く乗り越えたセザンヌは別として、シスレーこそ印象主義のたどり着きえる先まで歩き続けた唯一の画家だと思われる。
マネ / 花瓶のモスローズ 1882
今回の美術展でマネの作品はひとつだけ。そしてそのひとつが自分にとって最良の作品だった。この絵は拡大するとよくないので、小さめの画像を添付。
マネにしか描けない、マネによるマネのための静物画。独特な透明感、花の色の鮮やかさ、モノのエッセンスしか描かない技法。なんといっても、本物よりも質感のある、花瓶に落ち着いた水の素晴らしさ。画像でみられるように水は床の色を反映して少し黄色くなっているが、間近でみると本物の水よりも透明な感じがあって、辞書の「たっぷり」という単語の用例に使えばいいと思うくらいの「たっぷり」である。これだよこれ、と絵の前で一人つぶやいていた。
(つづく)
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