2009年9月3日木曜日

政治家の回顧録

9月某日

図書館で借りてきた小里貞利『秘録・永田町』を読む。懐かしき自社さ連立政権の頃、自民党国対委員長を務めた元衆議院議員の回顧録。なんでこれを棚からとったかというと、書名以外には思い当たらない。永田町の「秘録」と聞けば、面白くないはずがないではないか。

というわけで、政治の舞台裏が三度の飯より旨い私としては大いに期待したのだけど…。この回顧録、政治家にありがちな自慢話しか書かれていないためえらく失望した。自分がたずさわった数々の政治ファクトについてネガティブな面には一切言及していないため、“正しさ”の担保がないのである。

同じく主観的な回顧録として(回顧録に主観的でないものはないわけだけど)石原慎太郎『国家なる幻影』を読んだことがある。こちらは愛読したこともあり、読んでいてとても面白い。作家だけに文章がうまいのがあるが、なによりビビッドに政治が伝わってくるのである。主観も客観も超えた説得力が溢れていて、真実味などふきとばしてしまうほどだ。また野中広務の『老兵は死なず 野中広務全回顧録』なんてのも、自慢ばかりといえばそうなんだけど、でも野中氏の情念みたいなものが伝わってきてこれもまた面白いのである。野中氏の「声」が聞こえてくるような文章なのだ。

だが本書はそういった魅力に欠けている(はっきりいって事務的な文章、時系列的な事実の羅列でしかない)。たとえば、自社さ連立政権の樹立についてなど、権力を握ることを目的とした連立であるのは間違いないのにそのマイナス面は黙殺され、連立を手続き的に正当化する言葉ばかりが語られる。あるいは、阪神大震災への対応について、あれだけ批判があったのにもかかわらずそれに何の斟酌すらもしないのは、誠実には程遠い(完全無視はいただけない)。そういったことへの目配りこそが、著者の言葉の信頼性を保証するものなのに。

9月某日

紀伊国屋書店で立ち読みして面白そうだと思ってamazonで注文した本が届いたので、早速読み始める。

Karin A. Fry『ARENDT : A Guide for the Perplexed』

見るからに洋書である。洋書を紀伊国屋で購入するとamazonの1.5倍もするのだからamazonも仕方ない。

ハンナ・アレントの入門書みたいな本である。とりあえずIntroductionを読み終えた。哲学批判の特色あたりがHayekと共通するものがあって、Arendtへの興味がますます高まる(以前からHayekの『Law, legislation and Liverty』を読んでいるから、ちょうど)。とにかく読みやすく、サクサク読み進められる本である。

1 件のコメント:

  1. 遅ればせながら。

    ハイエクとアーレントは1950年代の一時期,ともにシカゴ大学の社会思想委員会のメンバーでした。社会思想委員会は,思想,分野にかかわらず多様な人々を集め議論する場でもありました。両者の間に会話があったのか,あったとすればどんな議論があったのか,今のところ明確な証拠はありませんが,想像するだけで,両者の思想のさらに深い面が見えてくる気がします。

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