7月10日
数年ぶりに古本屋「天牛書店」へ行く。ここは鉄筋二階建てに古本が所狭しと並べられている有数の古本屋。しかも値段も安いときている。文庫は50円から、単行本も100円から手に入る。いわゆるベストセラー本ばかりではなくそこそこ読める本が300円均一カートに置いてある。洋書も300円からあって、つい、読みもしないのに買った洋書は数十冊になるだろう。今回も9.11テロについてのアメリカ政府の正式な報告書なんぞも買ってしまった。きっと読むことはないだろう(後日、序文をちょっと読んだけど)。
で、今日の収穫はやはり『入江相政日記』と『高松宮日記』。昭和史第一級の資料がナント1冊480円から。
『入江日記』からひとつ取り上げると、入江は戦前のある日ある夜、辰野隆の長谷川如是閑論を読んだと書いてある。辰野はフランス文学者なのに、如是閑論を書いたことがあるわけですか。面白そうだ。
追記。そういえば、森茉莉が仏文和訳の仕事かなにかをしたとき、辰野隆にみてもらったとエッセイで書いていた。「夫だった人」(森茉莉の口癖)のつながりで、結構親しい間柄だったらしい。
7月11日
この前後数日、睡眠障害が悪化して何日に何を読んだかはっきりわからない。たぶんこの日は少なくともシャラーモフ『極北コルィマ物語』と内田魯庵『思い出す人々』を読んだ気がする。
短編集『コルィマ』で印象的だった短編をひとつ書いておくと、盲目の牧師とその妻と飼っている山羊の話(羊だったかも)。収容所には直接関係のない小説で、盲目となった牧師は山羊の世話を唯一の生きがいとして暮らしている。牧師は山羊の乳を売る収入で生活ができていると信じているが、山羊の餌代が高いため支出のほうが多く、本当は山羊を手放さないと生活ができないほどだった。妻はその事実を牧師に伝えることはできない。牧師は山羊の乳搾りをとても愉しみにしているからだ。
しかし、いつまでも隠すことはできない。家具や服など、売れるものはすべて売った。このことも妻は牧師に話していなかった。真実を知った牧師は、最後の財産である金の十字架を砕いて、妻に売るよう伝えるのだった。
7月12日
魯庵『思い出す人々』は二葉亭四迷の話が終わって、山田美妙の思い出話に入った。美妙の早すぎる晩年。若干20歳すぎで一流作家となった美妙は、それをピークに(早すぎるピークだ)峠を転がり落ちていく。それは、美妙の交際嫌いの性格と進歩する努力のなさが原因だった。その点、尾崎紅葉は真面目だった。作家たちとの付き合いを大事にし、新旧問わず、どんどん本を読んで、新しい知識を増やしていった。そうして紅葉は文壇の大御所となり、現代にまで名を残す文豪となったのである。
0 件のコメント:
コメントを投稿