2009年7月8日水曜日

幻のモラル


7月7日

シャラーモフ『極北コルィマ物語』の本編を読み出す。とりあえず100ページほど。ロシア文学といえば長大な小説を思い出してしまうけれど、短編小説にも素晴らしいものがあるじゃないかと教えられる本だ。ひとつのエピソードが長くもなく短くもなく淡々とまとめられ、無駄のない小説ばかりである。文章のはしばしから著者が詩人であることをも思い起こさせてくれる。

解説にあるように、収容所で暮らす囚人たちから道徳がほとんど失われている姿を描いているが、それでも、どんな境遇においても、どれほど数は少なくとも、救いとなる善意がぼうっと灯されているのは、事実だからなのか、はたまた著者のそれこそ善意なのか。

坪内祐三『変死するアメリカ作家たち』 3

第3章は「ナセニェル・ウエスト」。20世紀アメリカの三大小説として『グレート・ギャツビー』『日はまた昇る』とともにウェストの『孤独な娘』があげられるほど評価は高い。だが、生前はほとんど名声に恵まれることのなかった不遇の作家なのである。

1903年、ユダヤ系の家庭に生まれる。10歳にしてドストエフスキーやディケンズらロシアとイギリスの文学を読破するという早熟さをみせたが、学業はふるわなかった。本格的に勉強をはじめたのは大学時代。

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